1.骨粗鬆症(ビスフォスフォネート系製剤、抗RANKL抗体など)
(1)骨粗鬆症とは
骨の代謝バランスが崩れ、骨形成よりも骨破壊が上回る現象が続き、骨が脆くなった状態を言います。現在、超高齢社会の日本では1,300万人を超える方が罹患していると言われています。
治療薬としてはビスフォスフォネート(BP製剤)やデノスマブ(抗RANKL抗体)、ビタミン製剤、カルシウム製剤、女性ホルモン製剤、副甲状腺ホルモンなどがあります。
この中で顎骨壊死を引き起こす可能性があるのはBP製剤と抗RANKL抗体、そして新規治療薬の抗スクレロスチン抗体です。
(2)薬剤関連性顎骨壊死とは
骨粗鬆症でBP製剤、抗RANKL抗体、抗スクレロスチン抗体を処方されている患者さんが歯性感染症(むし歯、歯周病などが原因で歯肉や顎骨などが腫れること)を持っていると顎骨壊死が発生することが分かってきました。これらの薬剤は、続発性骨粗鬆症(下表)や悪性腫瘍で骨転移のある方、またその可能性のある方にも処方され、同様な顎骨壊死を起こすことがありますので注意が必要です。
顎骨壊死を引き起こす可能性がある骨粗鬆症治療薬
薬剤分類 | 成分名 | 商品名 |
---|---|---|
ビスフォスフォネート薬 | アレンドロン酸ナトリウム水和物 | フォサマック錠、ボナロン錠・経口ゼリー・静注バッグ |
イバンドロン酸ナトリウム水和物 | ボンビバ錠・静注シリンジ | |
エチドロン酸二ナトリウム | ダイドロネル錠 | |
ゾレドロン酸水和物 | リクラスト静注液 | |
ミノドロン酸水和物 | ボノテオ錠、リカルボン錠 | |
リセドロン酸ナトリウム水和物 | アクトネル錠、ベネット錠 | |
抗RANKL抗体薬 | デノスマブ | プラリア皮下注シリンジ |
抗スクレロスチン抗体薬 | ロモソズマブ | イベニテイ皮下注シリンジ |
続発性骨粗鬆症の原因
内分泌性 | 副甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、甲状腺機能亢進症、性腺機能不全症など |
栄養性 | 胃切除後、神経性食欲不振症、吸収不良性症候群、ビタミンC欠乏症など |
薬物 | ステロイド薬、抗痙攣薬、ワルファリン、メトトレキサート、ヘパリンなど |
先天性 | 骨形成不全症、マルファン症候群など |
その他 | 糖尿病、関節リウマチ、アルコール依存症、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患など |
(3)歯科治療時の注意点
1)お薬手帳の提示
骨粗鬆症治療薬の中でも顎骨壊死に影響を与えないものもありますので、自己判断は危険です。今は違っても将来なるかもしれない続発性骨粗鬆症もありますので、ご自身で判断せず必ずお薬手帳を持参してください。また、手帳には書かれない注射投与もありますので、注射を受けている場合はその旨を歯科医師に伝えてください。
2)注意すべき歯科処置
@抜歯・歯科インプラント・歯周外科など顎骨に侵襲が及ぶ治療はよく説明を聞いてください。
A顎骨に侵襲の及ばない一般の歯科治療としては歯石除去・むし歯治療・義歯作成などがありますが、治療後に義歯などにより歯槽部粘膜の傷から顎骨壊死が発症する場合もありますので定期的に口腔内診査は必要です。
B糖尿病等の既往症や、喫煙、飲酒、がん化学療法などがあれば、顎骨壊死の危険は高まります。必ず歯科医師に伝えてください。
3)薬剤関連性顎骨壊死を防ぐための休薬と再開
歯科医師が担当(処方)医師と相談の上決定しますので自己判断で休薬・中止をしないでください。最新の情報から休薬や中断せずに歯科処置ができる可能性が出てきました。しかし、処置方針に従ったとしても顎骨壊死が生じる危険性はあります。歯科医師は顎骨壊死の予防には努めますが服用患者さんも定期的な経過観察と口腔清掃の徹底が重要です。
参考文献
- 竹内靖博、骨粗鬆症の診断とガイドラインの変遷、日内会誌 111:732-738, 2022.
- 薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023.(2023年7月アクセス)
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