『口腔保健とフッ化物の応用』 はじめに
皆さんは「むし歯予防のためのフッ素」についてはどこかで聞いたことがあると思います。保健所などで幼児がフッ素を歯に塗ってもらう(フッ化物歯面塗布)とか、地域によっては保育園や幼稚園、または小中学校でフッ素の水溶液でぶくぶくうがい(フッ化物洗口)をしているとか、外国では水道水のフッ素濃度を調節している(水道水フロリデーション、水道水フッ化物濃度調整)なども耳にしたことがあるかもしれません。身近には最近の日本の歯磨剤のほとんどにフッ素が入っている(フッ化物配合歯磨剤)のをご存知の方も少なくないと思います。一方、井戸水などでフッ素を多く含んでいる自然の飲料水で育った人の歯に、白い斑点や縞模様がでる斑状歯(歯のフッ素症)が現われることがあるということも聞いたことがあるかもしれません。
これらの事柄がいずれも事実であるとすると、フッ素を有益に使用するにはどうしたら良いかを明らかにしなければなりません。
これから、このテーマパークの表題である『口腔保健とフッ化物の応用』について、以下の目次にしたがってお話しすることにします。
目 次
A.フッ化物とは何か
(1)大気中の酸素濃度の変遷
(2)海水のフッ化物濃度
(3)硬い殻をもつ生物の出現
(1)フッ素は必須微量元素
(2)食品中のフッ化物
(3)日本食品にはすべてフッ化物が含まれている。
(1)フッ化物の過剰摂取
(2)歯のフッ素症(斑状歯)
(3)飲料水中のフッ化物摂取と骨折リスク
(4)フッ化物適正摂取量と摂取許容量
(5)フッ化物推奨投与量
(1)フッ化物歯面塗布
(2)フッ化物洗口
(3)フッ化物配合歯磨剤
(1)水道水フロリデーションにおける至適濃度
(2)水道水フロリデーションの安全性
(1)世界における水道水フロリデーション
(2)世界におけるフッ化物の応用の推移
(3)水道水フロリデーションはWHO(世界保健機関)およびFDI(世界歯科連盟)が承認・推進している
(1)日本歯科医学会「フッ化物応用についての総合的な見解」
(2)日本口腔衛生学会「今後のわが国における望ましいフッ化物応用への学術支援」
(3)厚生労働省「フッ化物洗口ガイドライン」
B.フッ化物応用に関するQ&A
さて、本題に入る前に、これまでに「フッ素」と「フッ化物」という二つの言葉を使用してきましたので、ここで説明をしておきましょう。以前は「フッ素(fluorine)」で全部すませていたのですが、現在では、国際純正・応用化学連盟(IUPAC)の勧告によって「フッ素」は元素名であり、水や食品中の無機のフッ素は「フッ化物(fluoride)」ということにしています。水に溶けたときにマイナスイオンになる無機の物質を「〜化物」というのです。例えば、食塩を水に溶かすとマイナスの塩素イオンが現れますので、食塩を構成する塩素は塩化物です。また、水に溶けているフッ素イオンは「フッ化物イオン」と呼ぶのです。したがって、ここでは、とくにフッ素元素のときには「フッ素」、それ以外のときは原則として「フッ化物」という用語を使用することにします。
なお、「フッ素化合物」はフッ素の無機も有機もすべてのフッ素の化合物を表すもので、「フッ化物」とは同じ言葉ではありません。
|| 次のページへ ||