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再生医療とは

最近、よく見聞きする再生医療とは、どんな医療でしょうか?日本再生医療学会によれば、再生医療とは「機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、細胞を積極的に利用して、その機能の再生をはかるもの」とされています。一言で言うと、「細胞」を使った新たな医療ということができるでしょう。

私たちの身体は、実に200種類以上の細胞で構成されていますが、再生医療に用いる細胞として特に期待が高いのは、“幹細胞”と呼ばれる特殊な細胞です。では、この幹細胞について簡単に説明しましょう。

1.幹細胞とは

幹細胞には、他の細胞には見られない大きな特徴が2つあります。それは、自己複製能と多分化能と呼ばれます(図1)

(1)自己複製能

幹細胞が分裂して2つの細胞が生じた際、一つは増殖をせずに自分自身を複製し、幹細胞自身を生み出します。

(2)多分化能

分裂したもう一つの細胞は、さらに増殖しながら多種類の細胞に成長(分化)します。

この2つの能力がなければ、私達の体を構成する200種類以上の細胞を生み出すことはできませんし、幹細胞自身を複製できなければ新たな細胞を供給できなくなって身体を維持できません。そのため、幹細胞は私達の一生を支える貴重な細胞なのです。

2.幹細胞の種類

幹細胞は、(1)多能性幹細胞と(2)組織幹細胞(成体―、体性―も同義)の2つに大きく分けることができますが、そこにはそれぞれ複数の幹細胞が存在します。

(1)多能性幹細胞

1)ES細胞
胚性幹細胞(embryonic stem cell)。1981年にマウス、1998年にヒトで樹立されました。受精卵の一部(胚盤胞の内細胞塊)を体外に取り出して、シャーレ上で培養・増殖させた幹細胞です。
2)iPS細胞
人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)。2006年にマウス、2007年にヒトで作製に成功しました。成熟した細胞に特定の遺伝子を導入することで、未熟な状態に逆戻りさせた幹細胞です。ES細胞と同等の能力をもっていると考えられています。

この多能性幹細胞は、培養によって無限に増やすことができ、培養条件を変えることで、身体を構成する様々な細胞に分化することができます。

特に、患者さんの細胞から作ることができるiPS細胞は、治療に必要な細胞を誘導して患者さんに移植する再生医療や、薬の効果や副作用を調べる創薬など、将来の医療に大いに役立つ細胞として期待されています。周知の通り、iPS細胞の作製に成功した山中伸弥教授(京都大学)は、2012年にノーベル賞を受賞しましたが、2006年の最初のiPS細胞の報告からわずか7年目の受賞には、世界的に期待の高さが伺えます。

これら優れた能力を持つ多能性幹細胞ですが、ES細胞は、生命の萌芽である受精卵を壊して作られるため倫理的な問題があります。また、受精卵は自分の細胞ではないため、移植した場合の免疫の拒絶が問題です。一方、iPS細胞は、自分の細胞に遺伝子導入することで作製できるため、倫理や免疫拒絶の問題は低いのですが、がん化の危険性が存在するため、特に再生医療への応用には慎重であることが求められます。

こうした状況の下、世界に先駆けて目の病気(加齢黄斑変性)をiPS細胞で治そうとする臨床研究が、2013年6月に厚生労働省の審査委員会の承認を受けました。早ければ2014年夏には、理化学研究所の研究グループによって、iPS細胞の患者さんへの移植がスタートします。日本発のiPS細胞技術を広く医療に応用するため、そして難病に苦しむ患者さんに早く医療を届けるため、世界中の人々が注目しています。

(2)組織幹細胞(成体―、体性―も同義)

幹細胞には、前述した多能性幹細胞の他に、組織幹細胞とよばれる幹細胞が存在します。前項のES細胞やiPS細胞はどちらも人工的に作られた細胞のため、自然界には存在しません。しかし、組織幹細胞は、私達の体の中に存在し、組織や臓器を長期にわたって維持する重要な細胞です。この幹細胞は、近年様々な組織に存在することが明らかになっており、免疫拒絶やがん化の恐れが低いことから、以前から再生医療への応用が期待されてきました。

以下に、代表的な組織幹細胞を挙げてみます。

1)造血幹細胞
骨の骨髄の中に存在し、白血球や赤血球、血小板などの血液細胞に分化する能力を持つ血球系の幹細胞。白血病などの治療で行う骨髄移植は、この造血幹細胞を用いた再生医療の代表的な治療法の一つです。
2)骨髄幹細胞
同じく骨髄に存在し、患者さんから採取した骨髄液をシャーレ上で培養すると、シャーレ底面に接着して増えてくる付着性の幹細胞です。前項の浮遊する血球系の幹細胞とは区別されます。培養条件に応じて、骨、脂肪、軟骨、心筋、神経などの細胞に分化することが分かり、医学部を中心として再生医療への期待が根強い幹細胞です。
3)脂肪幹細胞
お腹の脂肪などから得られる脂肪由来の幹細胞です。骨髄幹細胞と同様に、複数の細胞に分化することが知られ、特に脂肪は、中高年以降では大量に得られるため、幹細胞の供給源として適しています。
4)歯の幹細胞
近年、親知らずや矯正治療のために抜歯された歯の中にも、幹細胞が存在することが分かってきました。通常、抜去歯は廃棄されますが、この歯から幹細胞が分離できれば、仕方なく抜いてしまった歯が貴重な幹細胞の供給源となる可能性があります。

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