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【医療関係者向け】SARS-CoV-2に対する
ポビドンヨード含嗽剤の効果について

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はSARS-CoV-2とよばれるウイルスが原因で起きる感染症です。COVID-19患者の唾液は、感染の初期段階から非常に多くのウイルス量を含んでいることから、唾液はSARS-CoV-2の重要な感染源になります。

 COVID-19患者の中には、無症状の患者がいることから、ウイルスに罹患したことに気付いていない患者が歯科医院や医院を受診する場合が考えられます。また、歯科医院を受診した後、COVID-19患者の濃厚接触者と判明する場合があり得ます。このため、歯科治療時に唾液飛沫や切削時のエアロゾルが発生すれば、それらに含まれる、あるいは含まれると考えられるSARS-CoV-2が空気中に拡散します。したがって、患者の口腔中のSARS-CoV-2量を可能な限り減らすことが、歯科医院での COVID-19拡大防止の一翼を担ってくれる可能性があります。

 2020年末、歯科医学の国際誌であるJournal of Dental Research 誌に掲載されたSARS-CoV-2に対する含嗽薬の効果に関する総説は、ポビドンヨード製剤の高いSARS-CoV-2殺効果を示しています1)。SARS-CoV-2を感染させた細胞に0.5%~1%の濃度のポビドンヨード製剤を15秒間から30秒間添加すると、99.99 %以上のウイルスが不活性化されます。COVID-19患者においては(患者数:4人)、1%ポビドンヨード製剤で1分間、含嗽をした場合、3時間、唾液中のウイルス量が減少しました1,2)。またAustralian Dental Association(オーストラリア歯科医師会)は、歯科患者に対する術前の0.2% ポビドンヨード製剤で、20秒間の含嗽を推奨しています1, 3)。このように、ポビドンヨード含嗽剤のSARS-CoV-2に対する殺効果が期待されています。

 本邦ではポビドンヨード製剤として7%ポビドンヨード含嗽液が広く用いられています。添付文書範囲内の用法に従い、15から30倍希釈(最終濃度:約0.2~0.5%)溶液で歯科治療前に20秒間以上含嗽することで、口腔内に存在するSARS-CoV-2量が一時的に減少する可能性があります。ヨウ素アレルギー患者には使用禁忌なので問診は不可欠です。広島大学病院の歯科では、感染制御部の指導のもと、歯科患者に治療前のポビドンヨード含嗽希釈溶液による30秒間の口腔の含嗽(ぶくぶくうがい)を推奨しています。一方、飛散の可能性があるために喉の含嗽(がらがらうがい)は行っていません。

 残念ながら、ポビドンヨード製剤の術前使用が歯科治療時にSARS-CoV-2の感染を予防することを直接示した臨床試験は実施されていないことから、術前使用が、歯科治療中のSARS-CoV-2感染拡大阻止に有効であるとは現時点でいえません。したがって、最も効果的な院内感染予防対策は、COVID-19の症状に関する問診、体温の確認、手洗い、個人防護具の装着(マスク、ゴーグル、プラスチックエプロンの装着など)、ラバーダム防湿の実施4) 、および口腔外バキューム使用などの標準予防策を基本とした感染予防対策の徹底的な実施であることは疑いの余地はありません。

文献
1) Carrouel F et al, Antiviral Activity of Reagents in Mouth Rinses against SARS-CoV-2, J Dent Res 22, 124-132, 2021.
2) Martinez Lamas L et al, Is povidone-iodine mouthwash effective against SARS-CoV-2? First in vivo tests. Oral Dis, 2020. doi: 10.1111/odi.13526
3) Australian Dental Association. 2020. ADA COVID-19 risk management guidance.
4) 柴 秀樹 他 残根歯に関する根管治療を行うための環境創出について 日歯内療誌 41, 155-164, 2020

太田耕司氏(広島大学大学院医系科学研究科公衆口腔保健学研究室教授)

略歴

1970年香川生まれ。広島大学歯学部卒業後,同大学大学院修了(口腔細菌学専攻),同大学病院口腔顎顔面再建外科 (旧歯学部付属病院 第二口腔外科)助教,講師を経て2019 年より現職,同大学大学院 医系科学研究科 口腔健康科学講座 公衆口腔保健学研究室教授,同大学病院口腔健康科科長