
角町 確かに私どもは恵まれていたと思います。私たち歯科医師が社会の場で「あなた方は歯しか診られないのか」と言われたときに、私は「違うんだ」と非常に反発したわけです。これからの私たちの動きは歯を離れて、口を見ていく、生活を見ていく視点を私たち歯科医師自身がもう1回、再確認しながら、いまの状況に対して「口は要りませんか」という切り口を積極的に言わなければいけないと思います。
長崎は小さな町ですから顔が見える関係で、「酒を飲もうや」というざっくばらんな話で、硬い話から問題点を語り合う会をつくることから始まりました。非常に狭い町でしたから、大きな町と違って人間関係がつくりやすかった。そのときに、どの領域もわかる人がいなければいけない。あるいは、発信するものがいなければいけない。
今回、長崎の場合は歯科の側から発信しました。医科から叩かれました。でも、叩きながら同じように物事を考えていた。仕組みというものはなくて人と人とのかかわり合いの中で生まれたので、ある立場にある人はその立場でしっかりとものを言わなければいけないと強く自覚しました。
座長 確かに医科との連携、ほかの職種との連携をどうするか。山口先生、前回、これに関連する問題で「歯科しっかりせい」というご意見をいただいたと思いますが。
山口 このメモを見ると「最も厳しい発言は山口がした」と書かれていますので今日は黙っていようと思いましたが、ご指名いただきましたので。
大変すばらしい活動だと思います。前回申し上げましたが、選択と集中の中でこういう集団の方々をしっかり選択されて、一番困難な道を選ばれていることに感服いたします。
まず感想ですが、人間はみんな生きる意味を持っていて、今回の会議は「生きがいを支える」というテーマになっていたと思います。医者になって、たとえば今日出てきたほとんど意識のない方の生きがいは本当にあるのかと思ってきたのですが、実は最近、生かされがいというものが別途あるように思えてきました。
患者さん自身は自分で生きがいを感じているかどうかわからないけれども、ご家族の生きがいにはなっている。かつ、角町先生の大きな生きがいになっています。人間の尊厳は本人が感じなくても大切な部分がある。それを周りが支えることは大変大切だといつも思います。
小さなことですが、最近、医療もいろいろなかたちで多職種チーム医療に向かって進んでいます。この分野、特に角町先生が関係している嚥下摂食障害の分野でも認定看護師ができています。最もかかわりやすい方々ではないかと思います。ただ、数はまだまだ少ない。そういう方とのかかわりあいがあるのかどうか。
医科がこの分野をやろうとするとリハの専門医で、なかなか忙しくて在宅まで積極的に出ていける状況はありません。認定看護師であれば、ずいぶん先生のお手伝いをできるのではないか。日本看護協会の認定で、ホームページを見ると長崎県にどんな人がいるかはネット上ですぐわかります。そういう方との連携も、少しお考えになるといいのではないかと思いました。*
*平成22年2月現在、摂食・嚥下障害看護の認定看護師(社団法人日本看護協会)は、155名で、
長崎県については1名だが非公開扱いとなっている。
最後に、私どもの施設では評論家になるなとということをいつも心がけています。批判はしてもいいけれども、批判だけに終わらず、必ず前向きな提案を求めるのが私たち静岡がんセンターの方針です。いまのお話も含めて、歯科の先生方がいままであまり手をつけてこられなかった高齢者なり病気の方々、口腔弱者を対象とした歯科医療に積極的に取り組んでいただき、周りがそれを支援することが大切です。そのために必要な物品をサンスター、静岡がんセンター、静岡県歯科医師会の間でしっかり整理して、情報として開業している歯科医師の方々に流して、それを国民に還元していただく作業をいま始めつつあります。いずれ私よりも静岡県歯科医師会の飯嶋会長にその成果を述べていただくことを期待しています。以上です。
座長 ありがとうございます。渡辺さんのご質問で、「歯科が意識を持って対応しようとしても医科がそれに十分に応えられる状況にない」と地域の歯科の方々は思っているし、実際にそうだと。それに対して医科側としてどういうこと、あるいは提案、サジェスチョンがありますか。角町先生という特殊な方のところで初めて成立する話であって、医者全般を見たときに確かにうまくいっていないのですが、何かサジェスチョンなりご意見をいただけますか。
山口 大変難しい問題だと思いますし、医科も含めて、歯科もそこでずいぶん悩んできた歴史があるのではないかと思います。ただ、時代は変わりつつあるように思います。先ほどの「町が1つの診療所」という観点から言うと、医科側の発想ですが、地域における多職種チーム医療の中に必ず歯科は入っています。そういう意識が徐々に広がっていくと成立していくのではないかと思います。そう思いますが、いま大島先生がおっしゃったように、医科の意識は間違いなく低いと思います。「私たちは口の中はわからないから歯医者さんへ行けばいいのではないか」が平均的なところだと思います。そこを角町先生のようにしっかり声を上げていただく。あるいは、長崎はがんの分野だと白髭先生たちが非常にいいNPO法人をつくってやっている地域でもあります。そういうところとの連携を進めていただくといいと思います。
座長 ありがとうございます。ほかにご意見はいかがでしょうか。
星 角町先生のすばらしい報告、ありがとうございました。角町先生がおっしゃったことにまったく同感です。口腔ケアは食の大切さを導入されるところですが、結果的に全身ケアにつながるというところはとても大事な指摘をされたと思います。そういった意味でも、歯科と医師との連携は絶対不可欠だということを冒頭で話されたと思います。
皆さんのところに「健康寿命を延ばす歯科保健医療」の冊子があるのでご覧いただきたいのですが、4ページにあります。ちょうど10年前、かかりつけの歯科医師がいるかいないか1万3000人を調査しました。10年間追いかけて何がわかったかというと、かかりつけ歯科医師がいると長生きだとわかりました。
ただ、メカニズムはまったくわかりませんでしたので港区の芝医師会に頼んで、歯科医師会のクリニックを受診される方の口腔ケアの状況と身体、精神的な健康との関連、生活習慣の関係をいままでずっと追跡してきました。高齢者は2万人を10年間追いかけ、壮年の5000人を5年間追いかけて分かったことを簡単に申し上げます。
基本的に、口腔ケアが全身ケアにつながって健康につながるエビデンスがある程度出てきたというご紹介をしようと思います。6ページは、4400人の、40~64歳までの成人です。5年間追いかけると何がわかるかというと、歯肉がしっかりしてむし歯がないほうが、生存が保たれそうだとわかってきました。と同時に右側はかかりつけ歯科医師がいるかいないかですが、とりわけ女性の生存が強く維持されることがわかったという話です。
これはカプランマイヤーですから、ほかの要因が制御できませんが、8ページをご覧いただきたいと思います。8ページに表5があります。生存日数を規定する多変量解析みたいなものですが、基本的に男性の場合、内科の主治医がいると早く死ぬことがわかりました。これはいろいろと問題が多いと思うので文章には書いていません。私は、ほとんど薬漬けになっている影響だと思います。それに対して女性だけですが、かかりつけの歯科医師がいると見事に、ほかの要因を制御しても生存維持に役立っていることが明確にわかりました。
9ページは介護の状況です。Cの図をご覧いただくと、かかりつけ歯科医師がいる群のほうが介護度のレベルが軽いこともわかっているし、介護度が悪化しないこともわかっています。これはこの表には載っていません。
11ページをご覧ください。日本には紹介が不十分だと思いますが、「俺は健康だ」と思っている主観的健康観の高い人は十分生存が維持されることはとっくにわかっています。病院に入院して「もう終わりだ」と思う人は死んでいくわけで、絶対に退院してやるという強い意思を持っている人にひ孫が病院に来て手を当ててくれる関係性がとても大事だと思います。
次の12ページは、かかりつけ歯科医師がいるほうが「俺は健康だ」という人がとても多いこともわかっています。15ページは、港区歯科医師会にものすごく頑張っていただいて3000人の口腔ケアの状況です。プラークの状況やメンテナンスの状況、口腔衛生の状況を調べて見事にわかったことは、断面の調査ですが、歯間ブラシを上手に使っている群がはるかに口腔衛生状態はきわめてすぐれていることがわかりました。いま追跡調査をしていますので、あと1年後には少なくとも因果関係が証明できるのではないかと期待しています。
最後に14ページの図14を紹介させていただきます。「好ましい生活習慣が生存を規定する」という1970年代からアメリカで行われたブレスローたちの研究を翻訳して出版したのは私と大阪大学の森本先生ですが、実はそれは嘘だということがわかりました。
つまり、人の生存を規定するのは、辛いですが基本的には収入です。収入のある人が基本的には前向きに生きる、ないしは孤立しない。精神的、身体的、社会的健康の3要素が、決定的にその後の生存を規定することがだいたいわかりました。学歴、年収、生活習慣も、直接には生存を規定しないことがだいたいわかってきました。
好ましい生活習慣は基本的に原因の要因ではなくて、結果の要因ではないかと推定されると思います。まだ外的妥当性までは十分ではないですが、今後追跡すべきことだと思います。
最後にもう1つ、角町先生たちのような活動を制度化、仕組み化することがとても大事だと思いますが、一言で言うと簡単だと思います。日本の医療は基本的に出来高払い制でみんなが病気になればなるほど病院は儲かりますから、基本的に予防には一生懸命ではないのが日本の現状だと思います。簡単に言うと、医者性善説で成り立っています。
けれども口腔ケアに関しては人を長生きさせるだけではなく、寝たきりも予防するどころか人のQOLを高めるエビデンスがほぼわかりつつありますから、これを使いながら成功報酬型でしっかり診療報酬点数につながるように制度上、改定しない限り無理だと思います。日本歯科医師会は民主党支援になりましたからチャンスだと思います。
鳩山総理大臣は施政方針演説で「いのち」という言葉を10回以上使ったと思います。ガンジーの言葉も出ましたが、この前、内閣府官房副長官にお会いしたら、ああいう理念型で演説をした総理大臣は始まって以来らしいです。平田オリザさんという劇作家が原稿を書いていることもわかりましたが、ちょうど20年前、サッチャーは患者第一主義、インフォームドチョイスという言葉を使いながら、医療のあり方を医者中心から患者中心に切り替えました。その手始めは、基本的にはサッチャーの施政方針演説でした。
そのあと彼女は何をやったかというと、看護専門学校をぜんぶ大学に切り替え、医師と同じ立場で患者を中心に位置づけました。どうやったらすぐれた医療システムができるか首相がリーダーシップを取ってやったことを、日本でも学ぶ時代がまもなく来るだろうと期待しています。
角町先生のようなすばらしい活動が全国に広がる意味でも、制度化する、仕組み化する、成功報酬の視点を入れる。再現性は確かめなければいけませんが、いままでのエビデンスを上手に活用しながらいきたいと思います。
長くなって申し訳ありませんが、港区の芝医師会は「かかりつけ歯科医の勧め」というパンフレットをつくっています。後ろをご覧いただくと芝歯科医師会の個人名が入っていますが、基本的には私たちが培ってきたエビデンスをここに入れながら、かかりつけ歯科医師がいるほど長生きだし、要介護も少ないし、前向きに生きられる。だから、どうぞかかりつけ歯科医を持ってくださいというパンフレットです。
本当のことを言うと、私はかかりつけ歯科医が頑張っているのではなくて、理解のあるかかりつけ歯科医師がいて、それをしっかりと支える歯科衛生士が口腔ケアを担っていることも忘れるべきではないと思います。長くなりましたが、パンフレットを回覧させていただいてよろしいでしょうか。







