
第2回目の全体会が、2月23日午後3時から日本歯科医師会7階会議室で、20人の委員のうち代理出席2人を含む15人、4人の内部関係委員、4人のオブザーバーと日本歯科医師会役員など関係者を集めて開かれた。
この日は、大久保会長の挨拶に続き、大島座長が、病院中心の医療から地域全体で支える方向に医療のあり方をシフトしなければならない、歯科医療がその起爆剤になるのではないかと述べ、国民歯科会議として国民の視点から歯科医師会あるいは歯科医療界に対する提案を、具体的な言葉で示すところまで議論を進めたいと挨拶した。
続いてこの日のプレゼンターとなった日本歯科医師会地域保健担当の角町正勝理事(長崎市開業)が、約30分間、訪問診療において地域の多職種と連繋し、患者さんが口から食べることを支援する活動を続けてきた長崎における実例を、実際の患者さんの例を通して紹介し、委員らに深い感動を与えた。
角町氏の活動を全国に広めるには…歯科から声を上げる
大島座長は、角町氏のプレゼンテーションについて、非常に感動的で、前回の会議で出された歯科に対する期待が、すでに具現化されているとしたが、同時に、現状の歯科全体からみると飛び抜けた状況と言わざるを得ないのではないかと問題提起した。そして、角町氏のプレゼンテーションと第1回全体会議のサマリーを
・ 食べられることは生きること、食べることは命を守ること、生活を守ること、生きがいを守ること
・ 歯科医療は待つ医療から出かける医療へ
・ 「治す医療」から「治し、生きがいを支える医療」へ
・ 「むし歯と歯周病」の治療から「口腔全体をケアしていく医療」へ
・ 咀嚼、嚥下を含め、歯科医療の責任は食べられることを守ることである
という五つのメッセージに整理した。
角町氏のプレゼンテーションについて、委員からは、次のような質問と意見が出された。まず、渡辺俊介委員(元日経新聞論説委員・国際医療福祉大学大学院教授)は、大島座長の提起した論点を踏まえ、角町氏に対して、これを全国的に広めるにはどうしたらいいか、と尋ねた。角町氏は、長崎が恵まれた例だとしながらも、長崎の場合は歯科の側から発信したこと、そして歯科医師自身が、歯を離れて口を診ていく、生活を見ていく視点を再確認しながら、「口から食べる」という切り口で積極的に発言しなければならないとした。
「医科側」を代表する意見を求められた山口建委員(静岡がんセンター総長)は、多職種チーム医療を進める上で、看護協会の摂食嚥下障害看護の認定看護師との連繋をアドバイスした。また、長崎の試みを全国に拡げるかという点については、医科も含めて同じ方向への流れが始まっていることを指摘した上で、現状では「難しい」という厳しい判断を示した。「口の中はわからないから歯医者さんへ行けばいいのではないか」というのが今も医師の平均的な認識であり、角町氏のように歯科医師の側からしっかり声を上げる必要がある、と語った。同様に笹川陽平委員(日本財団会長)は、ホスピスの建設等の支援や終末医療におけるホスピスナースの養成をしてきた経験を振り返り、終末期のチーム医療に歯科医師が入っている例はほぼ皆無とし、終末医療に対する医師の関心の低さを指摘し、「長崎で角町先生ができたことが、ほかでできないわけはない。」と終末医療のチームに入って歯科医師が発言することを求めた。朝日新聞編集委員の浅井文和委員も、最期まできちんと食べられるようにしていこうということは、国民だれもが支持してくれる目標だと評価し、わかりやすい目標であれば、国民の中に浸透していく、もっと広くアピールしていかなければいけないと、同じく後押しする発言となった。
具体策となると拡散
これに対して、星旦二委員(首都大学東京大学院教授)は、口腔ケアが全身ケアにつながって健康につながるというエビデンスがある程度まとまってきたと研究成果(『健康寿命を延ばす歯科保健医療』医歯薬出版)を紹介しながら、長崎の事例を全国に広げるには、「制度化する、仕組み化する、(出来高払いをやめて)成功報酬の視点を入れる」ことが必要だと踏み込んだ問題提起をした。ただ、大島座長は、星委員の提言が重要であることを認めながらも、診療報酬を成功報酬に変えろという議論は、この会議の場では行き過ぎだとした。この国民歯科会議が、政策提言の場ではないとの判断からで、制度の長所短所を深く議論する時間のゆとりがないことを考慮すれば、納得せざるを得ない。
医療ジャーナリストの松井宏夫委員は、「(角町)先生のような志の高い歯科医がどれくらいいるのか」と疑問を呈し、このような方向に進むには教育も必要だろうとした。また、国民保険中央会の田中一哉委員は、星委員の「かかりつけ歯科医がいることが生存維持につながる」との指摘を受けて「GP、総合医がプライマリーケアを受け持つ医療提供システムを構築する」ことの重要性を主張した。また、オブザーバーの飯嶋理氏(静岡県歯科医師会会長)は、静岡県で実現した「口と歯の健康づくり条例」によって地域の健康政策を出していくことができるようになったこと、県民参加の県民会議や癌患者の口腔ケアなどの活動によって、「歯科医師の体質や考え方が逆にリフレッシュされる」効果があると成功事例を簡略に紹介した。
角町氏のプレゼンテーションには共通の反応を示した委員らも、具体策となると議論の方向が拡散しがちになる。日本歯科医師会の宮村副会長からは、「高齢社会における生きがい」に絞るのか、「食」に絞るのか、決めたほうがいいと、この場の議論の進め方そのものを案ずる意見も出された。
国民の側から専門職能団体に望む提言を
大島座長は、この国民歯科会議の任務を改めて「専門職能団体に、国民の側から望むこと」という点に絞って提言することだと明言した。普通の生活者としての国民の立場から、「専門家だったらこうしてくれよ」という提案であれば、ほとんど矛盾なく共通基盤に立てるだろうとして、前回の議論および欠席委員の補足会議の議論を踏まえた議長提案の配布を事務方に指示し、秋元秀俊委員に解説を促した。
この議長提案は、何らかの叩き台を出すことが議論の具体化に役立つと考えて大島座長が準備を進め、秋元委員が素案をまとめた。秋元委員は、この国民歯科会議が「誰に対して、どの程度の広がりと射程で提言をするのか」曖昧だったので、その点をまず明確にすべきだと考え素案をまとめたと、経緯を説明し、議長提案を読み上げた。
議長提案 「生きがいを支える歯科に期待し、国民歯科会議は提案する」
大島座長が概ね賛同であることを一同に確認し、賛意を得た。ただし、表現の修正や要望をを求めた意見は下記の通り。
松谷満子委員は長寿を喜び合える社会をつくっていくためには、子どものときから日常の生活習慣を正しくすることがもっとも大切。その子どもが親になり、次の世代に日常の生活習慣を教えていく。座長が専門職への提言というので遠慮していたが、地域社会の一般住民がどうやってこの中に参加するかという視点が欲しいとの要望を述べた。これを踏まえて星委員も、地域住民との連繋は極めて重要な課題で、この1枚の提言の背景にどういう問題があるのかしっかり情報提供することで価値が増す。それと同時に国家試験の合格率が歯科医師数をコントロールしていることは、極めて重要な問題なので、そういう問題点を指摘しないと本質的な解決はないと述べた。
山口委員からは、「医療現場をよくご存じない方が書いた文章だと思うので、本当にこうなのか、またこの文章はいったいだれに向けての提言か。国民なのか、歯科医なのかを明確にすべきだろう」と注文をつけた。この点については、座長は、歯科医あるいは専門職能団体である歯科医師団体に向けての国民からのメッセージである旨、再度強調した。
大島座長は、「胃瘻の造設は、いまどこで決定されているか。その決定の場に歯科はいるのか。歯科が診ることによって口から食べられる可能性が十分に残されるなら、歯科はそこに参加してくれ」と具体的で切実な声を提言に込めることを提案し、まとめの言葉を大久保会長に求めた。
大久保会長は、数年前はまったく理解の得られなかったものが、今では政府の検討会でも「終末期の医療に歯科がかかわるべきだ」となっているという事例を紹介し、「この時代になってもなお技術中心主義で技術だけにこだわっていくとすると、生きがいを支えるという思想は出てこない。そこがいま私たちに求められていることだと思います」いま社会が大きな曲がり角にあるが、「曲がり角の中で何をしなければいけないか、それだけは明確にしたい」と、国民会議への期待をにじませた。また、初回の会合で、そこには敢えて触れないとしていた診療報酬にも言及し、国の政策として在宅をきちんと進めていく基盤づくりが必要だとした。
最期に、大島座長は、「この叩き台を持ち帰っていただき、気がついたところがあればどんな細かいことでもかまいません。『これを付け加えろ』、『これは言葉がおかしい』、『こういうエビデンスをまじえて出せ』というようなことも含めてご提案いただきたいと思います。」と、参加委員らに協力を求めた。
また歯科医師会の小谷田常務は、「口頭でのご発言だけではなく、ご自身の意見としてまとめられたものをご提出いただきたい」と要望した。





