第2回 生きがいを支える国民歯科会議

 それではご指名によりまして、早速、第2回国民歯科会議のプレゼンテーションをさせていただきたいと思います。本日は、名簿を見て大変な会議だということで緊張しています。緊張してとちらないようにメモだけつくってきましたが、これだけ真っ暗ではわかりません。何とかやってみようと思います。

 前回、大久保会長から生活を守る歯科医療ということで、食べることの意義についてお話され、議論が進んでいると伺っています。本日はそれを受けて、ご紹介があったように在宅から歯科の問題を考えてみようと思います。最初の切り口として、私が在宅に入っていくきっかけをつくった2人の医師との出会いの話をさせていただきます。
 まず1人目は、長崎県の寝たきりゼロ戦略検討会で出会った日本リハビリテーション協会の現在の会長です。当時の彼とのかかわりの中で、彼が私に二つのことを話されました。
 一つは、「歯科の先生方はなぜ最後までご自分の患者さんの口に責任を持たないのか」ということでした。要介護高齢者の訪問依頼に対して直ちに動くことがなかった歯科界に対する一つの批判でもあったと思います。
もう1点は、「病人を診るのは当たり前だけれども、病人の病態に応じて対象者の口を診ていますか」と。「ぜひリハビリテーションという考え方を入れていくことが大事だろう」ということ、この二つのことを言われました。「どんな環境の中でも、家族や仲間とともに住み慣れた場所で生活できる。その生活の口の支援にぜひ先生方も一緒に参加していただきたい」と言われました。

 もう1人は、脳神経外科の外科医でした。「自分が手術をする患者さんはすべて障害をつくると自分は思っている」ということでした。だから、障害が固定してしまってから先生方と連携してみてもあまり意味がない。ぜひ脳神経外科の救急の現場に来てほしいと言われました。そういう状況で、私はこの先生方とともに、このように地域で活動する場に飛び込んでいきました。

 現場へ行ってみると、通常、私どもが歯科の外来で診ていた患者さんの口の中とはあまりにもかけ離れた実態を目にすることになりました。これにはいささか驚きました。
これ(写真)は、脳血管障害の後遺症を持たれている患者さんの口の状態です。口の動きが非常に緩慢になっている。身体状況とともに口の動きが悪くなって唾液が粘稠になっていく。あるいは口が動かないためにかびが生え、口にたまる痰も吐き出せなくて突起状になって口に残ってしまう。あるいは麻痺している、動かないまま口が乾燥して拘縮して舌の機能を失って食べものを送れない状況になっている状態です。

 私たちだけではなく一般の方々が見てもわかるような悲惨な口の状況です。むし歯が進行して重症化する、折れる、放置される、歯周病が進行する、抜ける、でも放置されているという口の状態が目に入ってきました。現場にいた医師や看護師は、十分にこの状態がわかっていました。でも、あまりにも当たり前のことで、特に気にすることもなく当時は放置していました。こういう時期に私たちに声がかかりましたが、私たちが動かなかったという問題もあったと思います。

 いずれにしても、家族や本人の訴えやよほどのことがない限り、だれもこういう状態に手を付けていなかったのが20年前の状況でした。老いや病気で自力で受診できない方々の口の中が、このように壊れていっている状態を知ることができました。  究極の問題がどこに来たかというと、食べることです。食べるという生活が摘み取られる状態が現実に起きています。そうすることで生活をなくして孤立し、誤嚥性肺炎等々によって命を落とす方々がたくさんいることを改めて知ることができました。そういう状況の中で、治療によってこういうふうに回復する状態も出てきたわけです。

 本日は、この話をしようと思って来ました。訪問歯科を始めて偶然に出会った、いまでも忘れることができない2人の患者さんの話です。ここに記載しているようにお亡くなりなるわけですが、亡くなる前に、「先生、口から食べるのが一番です。これを伝えてください」と最後に言われた方のエピソードです。
 実は脳腫瘍による遷延性意識障害、すなわち植物状態になって寝ておられました。この患者さんとの出会いは術後2年半前後たったとき、「歯がぐらぐらしているから見てくれ」ということでした。

 この患者さんの経過をずっとたどってお話しします。相当悩んで手術をして、手術が終わって手術場から出てきた主治医に対して、「先生、大丈夫ですか、うちの家内は」とMさんが声をかけました。そのときに何と回答があったかというと、「大丈夫です。手術は成功しました。命も大丈夫ですよ」と答えられた。それが術後の状況で、す。術後1週間、2週間、3週間、声をかけても反応しない状況の中で、家族は「もうこのままなんですか。どうせ死ぬなら自宅に連れて帰りたい」という思いを主治医に語りました。

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