
「生活を支えるヘルスケア」
秋元秀俊委員(医療ジャーナリスト)
主語を「歯科は」ではなくて、「ヘルスケアは」と考えることを提案したい。わが国は、かつて世界のどの国も経験したことがないような高齢社会を迎えているが、そこでは医療というものは、医療単独では成立できない。福祉、介護、社会全体のかかわりの中でなければ成立しえなくなっている。高齢になり、リハビリが必要になり、障害を持ち、だれもが何らかの病気をもつ有病者であるということで、おそらく医療という概念をヘルスケアというより広い概念に置き換えて考えなければならなくなっている。
我が国では昨年、福島県立大野病院事件を一つの契機に「医療崩壊」というキャンペインが医療分野に吹き荒れた。国民が医療に求めるものと、医師が提供できる医療に、大きなギャップが生じているが、地域の病院で若い研修医や医師が厳しい職場から離れてしまう事態が次々に起こって、これが「医療崩壊」と呼ばれた。生きがいが見いだせないようなつらい医療現場から医師が離れてしまう。そのために産科や小児救急はじめ急性期の医療が、危機的に手薄になってしまった。しかし、そこから医師を増やせ、医療提供体制を守れという合唱が生まれ、急性期医療に財源を集中するべきだという世論が形成されてしまったことは、誤った世論誘導であったと言える。
命を守れというような通俗的な物語は、容易に広まる。これに対して、高齢化が進んだ社会では、本当に何が必要なのか、命を頂点とするような医療のヒエラルキーから、生活を支えるヘルスケアの広がりに変えていく必要があるのではないか。生活の医療のリーダーである歯科は、そういうメッセージを発するべきであろう。
「食べる力は、生きる力」
阿南 久委員(全国消費者団体連絡会事務局長)
私は子どもを出産して、子どもを健康に育てたいという思いから、生活協同組合の消費者活動に参加した。そこで食生活について学び合ったが、子どもたちの食育を考え、まずむし歯にならないようにしようということが最初の取り組みだった。そこからずっと食べることの大切さという運動に引きずられて、現在に至っている。私は、「食べることは生きること」だと考えている。生きる源は食べることなので、それを支えるのは、食べる力だろう。食べる力とは、自分の食べ方をマネジメントする力と、食べ物をよく噛んで、消化して、エネルギーをつくる力で、それが生きる力を支える。
今日は有意義な内容のプレゼンで、学ぶところが大きい。活動を進めていく上で裏付けになるような情報を得ることを楽しみにしている。
「食べ物も記号化が進む」
伊藤玄二郎委員(かまくら春秋社代表)
ここ数年、フィンランドとの文化交流の仕事をしているが、一つだけフィンランドに不満なのは、食べることにあまり意識がないということである。ある要人に連れられて行った、高級レストランで、メニューにマンネルヘイムという料理をみつけた。マンネルヘイムはフィンランド独立の英雄なので、定めし上等な料理だろうと期待して注文したら、出てきたのはゆでたジャガイモにひき肉の餡をかけたようなものだった。その話を友人のフィンランド人のジャーナリストに言ったら、食事は車に給油するようなもの、と言われ、いささかカルチャーショックを覚えた。
私は大学で文学を教えているが、記号化した若者たちの話し言葉が大変気になる。言葉というのが、その中に文化を持っているということをあまり若者は意識しない。これは食文化についても言えるのではないか。ただ栄養をとればいい。言葉と同じように、食べ物についても記号化が進んでいるのではないかという気がする。
里見弴が94になったときに、「先生、何を生きがいで生きていますか」と尋ねたところ「たぶん今日よりは明日のほうが楽しいことがあるだろう。明日を生きる楽しみがあるから、今日を生きている」という答えが返ってきた。いまこの日本には明日を生きるという期待感が少し失せているのではないかという気がする。
「社会貢献と歯科医師」
笹川陽平委員(日本財団会長)
国民会議の趣旨からは少し逸脱するかもしれないが、私がここに参加している立場を述べたい。歯科医院にある歯科撤去物、使われなくなった入れ歯とか、廃棄された金冠を日本財団が預かって現金化し、小児がんの子どもたちや東南アジアの山岳地帯の子どもたちの学校建設等々を進める仕組みをつくっていただいた。医師と患者が協力して、世のため、人のために何をするか、何ができるかということで、集められた撤去物を活用させていただく。
いま世界的にCSR(Corporate Social Responsibility)活動が、大きな話題になっているが、(日本歯科医師会のような)一つの団体を挙げて、世のため、人のための活動を決議したという例はない。日本歯科医師会が初めてだ。これを成功させることによって、先生と患者さんとの会話が、単に歯に関することではなく、歯科医師と患者さんの信頼関係をさらに強固なものにしていく、また社会貢献活動によって歯科医師の社会における信頼度をより強固なものにしていく、そのような活動の一端を私どもは担わせていただいている。日本の社会の一つのモデルができる可能性がある。こういう成功例をつくることによって、日本の社会で、「民」の立場で協力ができる仕組みをつくる。それによって、日本の社会の中に寄付文化を確立していき たい。
「治療対策から疾病予防対策へ」
田中一哉委員(国民健康保険中央会)
(会長のお話の中で)記憶に残った点が二つあります。一つは糖尿病の人は歯周病になりやすいといわれているが、反対に歯周病があると血糖値に影響があるという話だ。われわれ医療保険者は、去年の4月から、約5,600万人の被保険者のメタボリック対策を義務づけられている。糖尿病にならないために、ちゃんと健診をやって、保健指導をやれということが国の方針として決まり、われわれも全市町村をあげて、その課題に取り組んでいる。歯周病が糖尿病と極めて密接に関係するとなると、これまで歯科医療に頼っていたが、これからは歯科保健にも関心を持って、よろしくご協力をお願いしなければいけない、という印象を持った。
二つ目に印象に残ったのは、歯の本数と医療費の相関関係だ。歯が減れば減るほど医療費が高くなるという相関関係、非常に有意義なデータを見せていただいた。関係者に十分承知させて、歯科保健について周知を促していきたい。
国民健康保険は高齢者の多くを抱えている。保険者として、治療対策ではなくて疾病予防対策の方向づけをお示しいただいたことに感謝する。
濱本英輔委員(株式会社ロッテ顧問)
今日、私が何かを皆様方に聞いていただくことはない。いつか是非これは聞いていただきたいと思うことがあったときには、機会を与えていただきたい。
「オーラルケアとビューティフルエイジング」
藤重貞慶委員(日本歯磨工業会会長・ライオン株式会社社長)
ライオンは1896年に歯磨きをつくって、今年で113 年、歯磨きをはじめ、いろいろな口腔ケア活動をしている。むし歯の罹患率が減少し、高齢者の残存歯数が増えていることは喜ばしい。
しかし、日本人の歯茎と顎が細くなっていることは問題だ。歯茎をもっと丈夫にしなければいけない。一方で高齢者のドライマウスが、いろいろな障害の原因になるなど、歯だけではなく、お口全体の健康が大事だと思う。
日本だけではないが、人生の長さよりも人生の質が大事であると言われるようになった。人生の質を表す指標としては、世界保健機構が提唱する健康寿命がある。日本人の男性の平均寿命(2004年WHOリポート)は78.4歳、健康寿命は72.3 歳で、6.1年の差がある。女性は平均寿命85.3 歳、健康寿命77.7歳で、その差は7.6年。この期間は、人間としての尊厳を維持することが難しい。やはり健康寿命を延ばすことがわれわれの役割だと思う。
そのために、二つ大事なことがある。一つは歯科医師あるいは歯科衛生士による専門的なプロフェッショナルケアと家庭におけるホームケア、そのよい組み合わせを提案していくということ。プロフェッショナルケアでは、治療歯科から予防歯科へ、だれでも安い料金で予防ケアが受けられるように、保険適用を得るということが、この会議の一つのアウトプットになることを期待する。プロフェッショナルケアでは、障害や疾病のある方のオーラルケアも大切だ。
二つ目はビューティフルエイジングということ。より充実した人生を楽しむためには、やはり生まれたときからケアが始まる。各ライフステージごとのオーラルヘルスケアを提案していく。中学生ぐらいまでは充実しつつあるが、高齢者向けの歯周病に関連したケアの提案はまだまだ十分ではない。ライフステージごとのよいケアも、この会のアウトプットとしてできればいい。
「かかりつけ歯科医と寿命」
星 旦二委員(首都大学東京大学院教授)
都市高齢者の健康寿命の要因を多摩市に住む高齢者13066人の追跡研究(現在9年)によって調査した研究で、かかりつけ歯科医師がいる人は、いない人に比べて寿命が長いという事実が明らかになった。前向きに生きている人は歯科医院に行き、後ろ向きで病気がちの人は、どうしても内科に行きやすいという背景があることも考慮すべきだが、多変量解析をしても、かかりつけ歯科医師がいる人の生存率が維持されることがわかっている。
この分野の研究者と一緒に研究した成果を、間もなく出版する予定だが、そのエッセンスを紹介する。
芝歯科医師会との協同調査で、会員診療所を受診した20 歳以上の2,800人の口腔ケアの状況から、歯間ブラシを使っている人は、口腔内の状態や歯肉の状態が良く、定期受診をしている人が多く、主観的健康観が高いという結果が明らかである。
別の40代、50代から64 歳までの4,443 人の5年間の追跡調査では、歯茎の腫れやむし歯がない人ほど生存率が高いということがわかってきている。口腔ケアは全身ケアの極めて重要な導入口になり、命を延ばすだけではなく、要介護の予防にもなる。つまり歯科は人生を豊かに生きることに大きく貢献できる。私としては、できる限りこのようなエビデンスをこの場で紹介していきたい。
ただ気がかりなのは、口腔保健の成績が良くなると歯科医師の収入が減るという現実だ。歯科医師の年収は経年的に減っている。歯科大学の卒業生の国家試験合格率は65%前後になっている。歯科衛生士の収入が極めて低いという現実も無視できない。
それはすでにフィンランドで証明されていて、歯科大学が四つあったが、10年間でむし歯が一人当たり約4本から1本に減った結果、大学を二つ潰すことになった。この会議がより良く機能すればするほど、歯科医師の年収が減るのではないかと懸念している。
藤重さんがおっしゃったように、予防ケアを保険点数化するなどの視点が必要だ。やはり歯科医療のプロバイダ側の生きがいとか、心の豊かさがない限り、レシーバ側の国民の豊かさも、生きがいも高まらないのではないかと心配している。その面も含めて、この国民会議で提言できるようにすることが重要だ。
「歯科医の知識・技術のばらつき」
前野一雄委員(読売新聞東京本社編集局編集委員)
近年、国民の健康志向に伴って、健康寿命とか、あるいは生活のクォリティを上げるという意味で、歯の大切さについての認識はずいぶん浸透してきていると思われる。糖尿病等の全身ケアの大切さ、また歯を失わないことが何よりも重要な全身ケアになるという点も、これからはさらに強調して報道する必要があると思う。
この会議では、おそらく実りあるメッセージが採択されると思うが、問題はその考え方をどう伝え、どう実践していくかということだ。
というのは、国民は歯の大切さを知っているけれども、では、どこにかかったらいいのかという面がある。わかりやすく言えば、町の歯科医の意識の問題、それから技術の問題、そのへんにばらつきがある。そのばらつきを感じた国民は非常に不安感を持っている。そのばらつきの部分をどうしていくかということが課題だろう。
もう一つは全身ケアの大切さということから、医科との連携が必要だ。いまの日本の医療体制においては、歯科—医科がまったくバラバラな状態である。実際に、口腔ケアの大切さに気づいた医師が増えているが、まだまだ少ない。こういうところに働きかけをしなければならない。
今後、日本人の健康をどのように保っていくか。どのように増進していくかという視点に立って、医療システムのあり方を提言していかないと、実効性はなかなか上がらないだろう。
「安心して受けられる医療を」
松井宏夫委員(日本医学ジャーナリスト協会副理事長)
25年ぐらい前に歯科の取材をしたときに、歯科医の皆さんは、日本人はデンタルIQが低いと異口同音におっしゃっていました。8020運動が功を奏して、いまデンタルIQもあがってきて、歯が残るようになっています。自分の歯で食べられる老後が送れる点で、歯科医師会の活動を支持しています。
口の中は歯のみならず、歯肉もあれば、舌もあるが、口腔がんを見つける最先端にいるのは、やはり歯科医師で、がんの早期発見のためにも、ぜひ8020運動の中に、そういった要素も入れていただきたい。
一人ひとりの国民としては、万が一、歯がなくなったときのインプラントについて関心が高い。インプラントについて、国民が悩んでいるのは、どこへ行けばいいかわからない点です。金儲けのことばかり考えているのではないか。実際にインプラントの治療を受けて、歯茎も歯もだめにしたという人もたくさんいらっしゃいます。そういう問題を取り上げて、安心して国民が受けられるインプラントの医療を考えていただきたい。
「アンチエイジング調理法」
松尾幸造委員(シェ松尾代表取締役)
アンチエイジングについて、いろいろなアプローチがあるが、私が訴えていることは、私たちの体は100%食べ物でできているわけだから、やはり内部からきれいにならなければいけないということだ。これまで料理をつくってきた経験と技術をそれに生かせないかということだ。ただ、アンチエイジング食の食材とか、抗酸化野菜とか、そういう基礎知識はないので、食のアドバイスがうまくでない。そこで管理栄養士やアンチエイジング専門の医師と一緒に、12種類ぐらいのアンチエイジング調理法を研究した。実はここに一番重要なポイントがあると思うのだが、どんなにいい食材でも、調理によっては、悪い食材に変わってしまうことがあるので、アンチエイジング調理法を普及したいと考えている。
私は、健康のバロメーターは口の中にあるのではないかと思っている。咀嚼できないと、本来、食べ物が持っている味を感じられないと思う。
「キーワードは格差」
松田喬和委員(毎日新聞論説室専門編集委員)
門外漢としてお話を聞いていて、(この国民歯科会議と)歯科医師会との関係をどうつくっていくかというところが見えない。
大久保会長のレクチャーを聞いて、私は身につまされました。64で20本ぎりぎりなものですから、少し頑張らなければいけないと思った次第だ。
皆さんにぜひ提案したいキーワードは「格差」だ。地域格差ということもあるが、世代間格差、それから性別間の格差、そしてそのアンチが出てきている。この前の東京都議会選を見ると、だいたい民主党が勝っている。民主党でも強いのは若い人。そこが女性だったら、さらに高い得票率を取っている。戦後六十数年経って、転換期に来ているのだろうと思う。そこで、低福祉・低負担がいいのか、中福祉・中負担がいいのか、そういう問題提起をしていかなければいけない。負担を強いられるのは若い人だが、だれがどういうふうに負担し、給付を受けるのか、そういう視点がますます必要になってくる。社会保障全体の観点から、そういう状況ではないかと思う。
「食は命、食べ方は生き方」
松谷満子委員(財団法人日本食生活協会会長)
私どもの協会はいまから五十数年前に食生活協会という名称で出発した。当時は戦後の食べ物のなかった時代で、世の中では栄養改善ということだけを言っていたが、その中で私たちは食生活を文化として捉えてきたので、かかわる分野が非常に大きかった。「食」は、「食生活」でなければならない。食は命であり、食べ方は生き方の問題だ。
私は協会設立時から、そのような理念で、50年間活動し、82歳になった。主な活動は、住民が自らの健康問題に対して、自らの問題と考え、実践していかなければならないということで、食生活改善推進員というボランティア(当時は奉仕と言った)組織をつくり、自らやる、喜んでやるというかたちで食生活改善推進員を育成してきた(現在、少なくなったが全国で約19万人)。その人たちが現在、お向かいさん、お隣さん、ときには高齢者に食事を届けをするような活動をしてきている。
歯科医師会とは、昭和30年の後半から非常に長いお付き合いをしている。3歳児健診、1歳半健診について、歯科医師会と一緒になって、国会議員や厚生省に働きかけて、歯科健診を入れるべきだとお願いして回った。しかし、残念ながら、代表者から、感銘するような言葉は聞いたことがなかった。大久保会長に接して初めて同じ世界の方だと感じ、心から敬意をもった。
かつて三師会(医師・歯科医師・薬剤師会)が無糖問題を始めた。子どものおやつにセロリをかじれ、ニンジンをかじれ、お砂糖はだめだというようなことを本気で歯医者さんがやっていた。しかし、お乳が甘いのは、脳の栄養に糖質が必要だからだ。それを子どもから取り上げるのはおかしい。改めなければいけないのは、食べさせ方、飲ませ方、使い方だ。特定の食品を標的にするのもおかしい。東京医科歯科大学の大西先生が、乳酸菌の問題を発表され、それで初めて食べさせ方、飲み方が悪いという考え方が広まった。
アメリカのヘルシーピープルでは、医療の果たす役割はたった10%、日常生活習慣50%、遺伝20%、環境20%で、日常の生活習慣が大事だ(星先生の講演でうかがった)。医療の専門の皆さん方と連携しながら、正しい生活習慣をつくっていく運動を今後も展開していきたい。
現在は高齢者の低栄養の問題も大事になってきている。食生活改善の活動について、ご指導と連携をお願いしたい。
「健康寿命100歳プロジェクト」
伊藤澄一委員(全国農業協同組合中央会(JA全中)常務理事;茂木会長代理)
組合員の営農と生活を守っていこう、発展させていこうというのがJAの使命だが、特に生活の部分に関連して、大久保会長のお話には、深く感じるものがあった。いま3年に1度のJA大会の準備をしており、組織をあげて、新しい農協、新たな協働づくりをしている。その中で、暮らしの中の健康の問題、豊かな老後を送っていただくために、私たちは組合員や地域の皆さんに何ができるかという議論を進めている。その中で「健康寿命100歳プロジェクト」というのを、この大会に向けて進めている。平均寿命がさらに延びていくことが予想されており、可能な限り健康で過ごしていただく。特に農村では高齢社会が進んでいるので、組合員の皆さんに、われわれがどのような呼びかけをすべきか検討を進めている。みんなで運動しよう、楽しい食事をしようということだ。
JAは、全国各地に117の病院(厚生連病院)を運営しており、ここを拠点に、健康、予防、介護あるいは福祉も含めて展開している。目的は健康づくりであり、まさに今日のテーマである「生きがいづくり」だ。われわれは食育には取り組んでいるが、農産物を生産すると同時に、それをおいしく、とにかく健康で食べていただくということが、実は豊かな生活につながるということについては、まったく同感である。今後、運動に一緒に取り組んでいきたい。
「『口腔弱者』のコンセプト」
山口建委員(静岡がんセンター総長)
がんの医者を長くやっている。内科ですので、その対象の多くは進行がんであり、延命であり、看取りになる。そういう中で人間の生老病死を早送りで見ているのが、私たちがんの医者なのかなという気がする。その本質は、1人の患者さんにとっては、当たり前であったことが、どんどん当たり前でなくなっていく。そういうことを早送りで見てきた。その「当たり前のこと」には、食欲とか、性欲とか、いろいろな欲というものがある。食欲というのは、ほかのものとは少し違って、食べられなくなったというときには、命を失っていくと同時に、本能が消えていくという感じがする。経静脈栄養を内科医として一生懸命やってきたが、いまの結論は、「食べる」のには決して及ばないということだ。食べるということを多く担っている歯科医師 の方々に、その事実をしっかり把握していただきたい。本能にとって最も大切なことをやっているという気持ちを持っていただきたい。
静岡がんセンターをつくったときに、静岡県として歯科を充実させていただいた。医科歯科連携である。私どもの病院では歯科の大田先生が他の医者、あるいは看護師を引き連れて、患者さんの歯と歯茎を守るための仕事をしている。しかし、一般的には、歯科単独で、相変わらず人生50年という考え方で、健康人の治療だけをやっているにすぎない面があるのではないか。
8020運動は、それを打破しようという試みだが、高齢者社会に、まだまだ十分に対応していないのではないか。30代、40代、50代ぐらいの人々への教育が不十分だと思う。歯の磨き方、歯茎磨きというのを、私もその頃の年代に聞いた覚えがなかった。
医科歯科連携の中で、私は“口腔弱者”という言葉を静岡がんセンターでつくった。歯科の領域も口腔疾患にかかりやすい集団を明確にして、選択と集中により多くの人々を疾患から守るために、糖尿病、抗がん剤使用患者に集中した治療、正しい知識の普及をするために“口腔弱者”のコンセプトを固め、歯科医の方々あるいは国民にそれを広めて欲しい。
スーパーマーケットに行って、1円でも安い歯ブラシを買って、10円でも安い歯磨き剤を買って、歯のことに関心はないという状態を打破しないと、人生80年にはついていけないだろう。
(以下、ディスカッション及び内部委員・オブザーバーの発言は、会議録を参照してください。)





